歌词
夜の瀬戸内海、
大島の沖合いに停泊する幕府の軍艦の灯火だけが、
闇の中で空の星のように浮かび上がって見える。
どうやら船を動かす蒸気機関の火が消え、
兵員たちもすっかり眠りの落ちているようだ。
昼間の勝利の余韻に浸って、
すっかり油断しきっているのだろう。
最高だ。ぞくぞくするね。
ゆっくりと敵船に近づく丙寅丸の船上で、
俺は思わず笑みを浮かべた。
このまま夜襲をかければ間違いなく勝てる。
だが、この好機を見過ごせば、
果たして歴史は大きく変わるだろうか。
それとも。
いま、俺は明らかに運命の分かれ道に立っていた。
慶応2年6月、太平の眠りを覚ます黒船の来航から10年あまり、
攘夷派の急先鋒として公然と倒幕と唱える長州藩は、
江戸幕府によって攻撃は受けていた。
後世に第二次長州征伐とも四境戦争とも呼ばれる戦いだ。
そして、15万もの兵力を動員した幕府軍が、
最新鋭の軍船4隻を派遣し、瀬戸内海に浮かぶ大島を占領させたのがつい昨日のこと。
そこを足掛かりに幕府は一気に長州藩の拠点である周防へと攻め込もうというのだ。
そうなれば、四方から幕府軍に攻められている長州藩は確実に負ける。
だが、本当にそうなのだろうか。
「あの、なぜそのような軽装で、高杉さんはわれらの大将です、もう少し威厳というものをお考えになられては」
と、着流しに扇子一本を持っただけという俺の恰好が気になったのか、
副官の一人が声をかけてきた。
「威厳か、俺たちは必ず勝つ、恰好などこれで十分さ」
そう、今度の夜襲は成功し、長州は必ず幕府軍に勝つ。
そして、江戸幕府はいずれ大政奉還によって終焉を迎え、
日本は明治政府が行う改革によって西洋のような近代国家となっていくだろう。
俺にはそこまで未来が分かっていた。
なぜなら、それこそが俺の知っている正しい歴史の流れなのだから。
それでも、もし海軍総督である俺がわざと負けるように指揮をとったら、
果たしてその決断で歴史は変わるのだろうか。
それとも、やはり歴史という大きな流れの中で簡単に修正されてしまうのだろうか。
「それもまた面白い」
思わずそんなつぶやきが漏れた。
かつての俺の人生と比べたら、なんとスリルのある人生なのだろう。
俺がこの時代で高杉晋作として生きる前、150年先の日本で生きていたあの頃と比べて。
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